うまいスピーチではなく、「あなたが話す理由のある」スピーチを。
スピーチを頼まれた瞬間の憂鬱の正体は、「何を話すか」が決まらないことです。ここでAIに丸投げすると、偉人の名言と一般論でできた、誰が話しても成立する原稿が出てきます。誰が話しても成立する話は、あなたが話す理由がない話でもあります。
聞き手の記憶に残るスピーチの核は、たったひとつの具体的なエピソードです。AIの仕事はエピソードの発明ではなく、あなたの記憶から核になる場面を質問で掘り起こし、時間内に収まる構成に組むこと。この分業を守れば、スピーチ準備は30分で終わります。
「◯◯さん、本日はお疲れ様でした。あなたと過ごした日々は、私たちにとってかけがえのない財産です。新天地でのご活躍を心よりお祈りしています——」…名前を差し替えれば誰の送別会でも使える原稿が出てきます。当の本人が聞けば「私のこと、何も出てこなかったな」と気づきます。
送られる人との具体的な記憶を何も渡していないため、AIは送別スピーチの平均値——つまり定型の美辞麗句——で3分を埋めます。スピーチの感動は文章の美しさではなく、「その人しか知らない場面」の解像度から生まれます。
また、話す場の情報(人数、雰囲気、自分と相手の関係)がないと、丁寧すぎたり砕けすぎたり、温度を外します。
【 】の中を自分の状況に書き換えて使ってください。全部埋まらなくても大丈夫——埋めた分だけ、出力があなた仕様になります。
「頑張り屋でした」ではなく「終電を逃してまで直したあの資料の夜」。AIの深掘り質問に付き合ううちに、忘れていた場面が浮かびます。この掘り起こしがスピーチ準備の8割です。
スピーチ原稿の失敗で多いのは、単純な分量オーバーです。持ち時間を渡せば、AIは入れる話と捨てる話の取捨選択までやってくれます。
書き言葉の原稿は、読み上げると硬くて「原稿を読んでる感」が出ます。話し言葉指定と「つっかえやすい箇所の指摘」で、声に出す前提の原稿になります。
「厳しくしすぎた自覚もある」のような一行を渡すと、AIはそれを誠実な一言に織り込んでくれます。きれいな話より、正直な話のほうが届きます。
同じ型で「場面:友人代表、80人、親族もいる」に変えればOK。内輪ネタの暴走を防ぐため「親族が聞いて意味がわかり、新婦の株が上がる話だけ」という条件を足すのがコツです。
「最近あった仕事の小さな気づきを1つ話す。教訓っぽくしすぎず、明日から使える一言で締める」と頼めば、当番制朝礼の苦痛が5分の準備に変わります。ネタ自体は日常メモから拾いましょう。
原稿完成後、「聞き手役として聞いて、間を取るべき箇所と、カットしても伝わる文を指摘して」と頼めば、練習まで付き合ってくれます。
送別会や結婚式のスピーチは、他人の個人的な話を公開する行為でもあります。失敗談や昔話は「本人が人前で言われて嬉しいか」で最終判断を。AIは面白さでは選べても、この判断はできません。
全文暗記は、飛んだ瞬間に真っ白になります。「つかみ→エピソード→伝えたいこと→締め」の4ブロックの流れだけ覚えて、言葉はその場で紡ぐほうが、多少崩れても心に届きます。
「笑わせる」より「和ませる」を狙うのが安全です。プロンプトに「爆笑狙いではなく、くすっとする程度の軽さ。自虐は私(話し手)に向けたものだけ」と指定すると、事故率が大きく下がります。
ステップ1を圧縮し、「エピソードは自分で1つ決めた。◯◯の話。これを核に1分の話し言葉原稿を」と直行してください。エピソードさえ本物なら、10分準備でも定型挨拶より心に残ります。
レシピは覚えるより、今日の仕事でひとつ試すほうが早い。