AIが次の世代のAIの開発を担い、できたAIがさらに速く次を作る——という循環のこと。人の手がほとんど入らなくなる点が問題にされ、2026年11月にAnthropicが「自社の基準に近いかもしれない」と公式の届出書に書いて話題になった。
AIの性能はこれまで、人が設計を考え、人がコードを書き、人が実験をして上がってきました。再帰的自己改善(RSI)は、その改良の作業そのものをAIが担うようになり、できあがった新しいAIが次の改良をさらに速くこなす——という輪が回り出す状態を指します。「再帰的」とついているのは、出てきた結果がそのまま次の入力になるからです。輪が1周するたびに速くなるので、ある時点から人が様子を見て判断する速度のほうが追いつかなくなる、というのが心配されている中身です。
この言葉が2026年11月に急に表へ出たのは、Anthropicが米国の証券取引委員会(SEC)へ提出した上場申請書の修正版に、自社の安全基準に「近いうちに当てはまるかもしれない」と書いたためです。10月26日に出した最初の版には無かった記述で、報道各社がそろって取り上げました。研究者の論文ではなく、投資家向けの正式な書類に書かれたという点が、今回いちばん珍しいところです。
Anthropicは「責任あるスケーリングポリシー(RSP)」という自社の安全基準を公開していて、2026年時点のバージョンは3.4です。その中に「AIに起因する劇的に加速した進歩」という項目があり、定義は「改善の速さがそれまでの2倍になり、その倍増がAIのおかげだと考えられること」とされています。届出書が「近いかもしれない」と言っているのは、この線のことです。
同時に押さえておきたいのは、届出書が「現時点で、この基準を超えたと判定したモデルはない」と明記していることです。データを評価している最中だ、という段階にとどまります。「超えた」と「近いかもしれない」はまったく別の話なので、見出しだけで前者だと受け取らないほうが正確です。
背景にあるのは、開発の現場がすでに変わっているという事実のほうです。同社のコードベースへの貢献の9割超がClaudeによるものだと報じられています(2026年6月時点の報道では「マージされたコードの8割超」で、測り方と時点によって数字は違います)。自社のモデルが次のモデル作りを手伝う循環を、同社は「ループを閉じる」と呼んでいます。
届出書自身が挙げている懸念は2つです。ひとつは、研究開発でAIを使うほど、能力の伸びが安全性・アライメント・セキュリティの作業を追い越してしまいうること。もうひとつは、過去に能力の飛躍を、起きたあとになってから気づいたことがある、という自己申告です。測っている当人が「見落としたことがある」と書いている点は、そのまま読む価値があります。
対応として同社が挙げているのは、人が主導権を保てるようにRSPを更新することの検討です。人の意味のある監督なしにClaudeが将来のフロンティアモデルを自律的に作るのを、安全に許せるとは考えていない——という書き方もされています。つまり「止める仕組みを先に作る」という方向で、できることを制限する側の話になっています。
こうした警告を戦略として読む見方もあります。最前線を走り続けながら「最前線は危ない」と言うことは、規制の視線を最前線に集めることでもあるからです。OpenAIも似た趣旨の発言をしており、基準の引き方そのものが甘いのではないかという専門家の指摘も出ています。
書類の性質も効いてきます。上場の申請書は、起こりうるリスクを広く書いておくほど、あとで「説明していなかった」と言われにくくなる種類の文書です。だから「危ない」と書かれていること自体が、差し迫った事態を意味するとは限りません。
この話で確かなのは2つだけです。AIが開発作業の大半を書いている会社が実在すること。そして、その速さを測る物差しを、走っている当人が自分で持っていること。超えたかどうかの判定はまだ出ていません。ニュースで「AIが自分を作り始めた」と見かけたら、どちらの話なのかを確かめてください。
AIが次の世代のAIの開発を担い、できあがったAIがさらに速く次の改良を進める——という循環のことです。改良の結果がそのまま次の改良の道具になるため「再帰的」と呼ばれます。輪が回るほど速くなるので、人が様子を見て判断する速度が追いつかなくなる点が心配されています。
していません。2026年11月の届出書には「現時点で、この基準を超えたと判定したモデルはない」と明記されており、データを評価している最中だとされています。書かれているのは「近いうちに当てはまるかもしれない」という見通しのほうです。
違います。RSIは「AIがAIを改良する循環」という仕組みの名前で、シンギュラリティはその先に想定される出来事の名前です。RSIが起きたら必ずシンギュラリティに至る、と決まっているわけでもありません。順番としては、RSIのほうが手前にある具体的な話になります。
用語を覚えるより、ストーリーで体感するほうが早い。