文字起こしは「録って終わり」が9割。整形して初めて資産になる。
ZoomやNottaなどのツールのおかげで、録音をテキストにするのは一瞬になりました。ところが出てきた生の文字起こしは、「えー」「あのー」だらけで、誤変換が混ざり、誰の発言かも怪しい——そのままでは誰も読みません。録音データの大半は、ここで死蔵されます。
この「生テキストを読める文章にする」工程こそ、AIの出番です。ただし「整形して」とだけ頼むと、AIは気を利かせて要約を始め、発言の中身が削れていきます。このレシピの核心は、直してよい範囲(フィラー・誤変換)と、触ってはいけない範囲(発言の内容と順番)の線引きを渡すことです。
分量が3分の1になった「きれいな要約」が返ってきます。あの人らしい言い回しは消え、検討の経緯も「〜について議論した」の1行に圧縮。一方で音声認識の誤変換(「経営層」が「軽営業」のまま等)は直っておらず、聞き取れなかった箇所はもっともらしい言葉で埋められている——読みやすいのに、記録としては使えないテキストです。
「整形」の中身は人によって違います。フィラーを削るだけなのか、口語を整えるのか、要約までするのか——指定がないとAIはいちばん手を入れた状態、つまり要約込みの書き直しを選びがちです。整形と要約は別の仕事なのに、境界線を渡していないのです。
もうひとつの事故は「穴埋め」です。文字起こしには聞き取れていない箇所が必ずあり、AIは前後の文脈からもっともらしく補完してしまいます。補完された言葉は自然すぎて、あとから読んでも創作だと気づけません。禁止しない限り、起きる前提で考えるべき挙動です。
【 】の中を自分の状況に書き換えて使ってください。全部埋まらなくても大丈夫——埋めた分だけ、出力があなた仕様になります。
整形と要約は別の仕事です。この1行がないと、AIは良かれと思って発言を圧縮し始めます。まず全文を「読める状態」にして、要約が必要ならそのあと別の指示で——工程を分けるのが安全です。
削ってよいもの(フィラー・言い直し・相づち)を具体的に列挙すると、AIは安心して削り、それ以外を残します。基準がないと「削りすぎ」か「遠慮して残しすぎ」のどちらかに振れます。
音声認識の誤変換は、文脈を読めるAIの得意な修正対象です。ただし黙って直させると、正しかった箇所まで変えられたとき気づけません。修正一覧を出させれば、1件ずつ確認できます。
このレシピ最大の安全装置です。聞き取れない箇所を「穴のまま残せ」と指示することで、AIのもっともらしい創作が記録に紛れ込むのを防ぎます。穴は録音を聞き直して人間が埋めます。
1時間を超える文字起こしを一度に貼ると、後半の処理が雑になりがちです。20〜30分ぶんずつに分け、「続きの素材です。同じルールで」と渡すほうが、全体の品質が揃います。
インタビューを記事にするなら、整形のあとに「この内容でnote記事の構成案を出して」と続けます。整形→構成→執筆と段階を分けると、発言の事実と記事の演出が混ざりません。
座談会やパネルディスカッションなら「発言者ごとの言い回しの個性は残す」を条件に足すと、整いすぎて全員同じ口調になるのを防げます。人柄が伝わる記録になります。
文字起こしには相手の発言・顧客名・社外秘がそのまま入っています。AIに貼る前に、社内のAI利用ルールと、記事化なら本人の確認を。入力が学習に使われない設定のAI(会社契約のプランなど)を使うのが基本です。
人名・社名・製品名の誤変換は、AIがその名前を知らなければ直せず、むしろ別の実在する名前に「修正」してしまう危険があります。登場する固有名詞の一覧をプロンプトに足すと精度が上がりますが、最後は人間の目で原文と突き合わせてください。
決定事項・宿題・論点に構造化したいなら、専用の「議事録作成」レシピが向いています。このレシピは発言を残したまま読めるようにする整形用。先に整形してから議事録レシピに渡す2段構えは、長く残す会議の記録に有効です。
2026年10月時点では、録音からの文字起こしはZoom・Notta・Whisperのような専用ツールやアプリの録音機能が主力で、チャット型AIは「できたテキストの整形・活用」の担当という分担が定番です。話者分離やタイムスタンプも文字起こしツール側が得意です。
社内共有なら修正一覧の確認だけで十分なことが多いですが、記事として公開するなら、発言者本人のチェックを挟んでください。発言の切り取られ方は、本人がいちばん敏感に気づきます。
レシピは覚えるより、今日の仕事でひとつ試すほうが早い。